出会い
音楽学校を卒業してからしばらくは音楽制作現場やテレビ局のイベント制作部門などで働いていたわたしが、一念発起してWebデザインのスクールに通うことにしたのが1996年のこと。なんとかスクールは卒業したものの、知識レベルはほとんどシロウトのまま、ある企業の自社サイトを制作・管理するために派遣社員として働きはじめました。
当時はインターネットがあまり普及しておらず、派遣先の大手システム開発会社ですらインターネットにつながるパソコンが各部署に1台しか設置されていないような状態。当然ながら周囲にWebデザインの知識を持った人は皆無で、技術面を誰かにジャッジされることもなく、知識を得る手段すらないまま手探りの毎日でした。正しい知識よりもその場しのぎの迅速な対応を要求される現場で、テーブルレイアウトのノウハウをひたすら積み上げていく日々でもありました。
4年後、Web制作会社に正社員として転職。それまでの「なんでも屋」から「コーダー」へと立場がかわったことではじめて、「HTMLの知識をもっと深く掘り下げたい」という欲求が芽生えました。その会社で唯一のコーダーだったため、ここでも独学で勉強せざるを得なかったのですが、書籍やWebサイトでHTMLやCSSを学んでいくうちに、「HTMLとはレイアウト用の言語である」と信じて疑わなかった自分の勘違いぶりにようやく気づき、愕然としたのを覚えています。
苦難
それまで自分が正しいと信じてきたものが正反対であったことを知ったわたしは、「一刻も早く軌道修正しなくては」と焦りました。しかし、すでに完成されたワークフローを見なおしたり、新しい手法を取り入れるのはむずかしいものです。ジクジクとしたフラストレーションを抱えながらも、相変わらずテーブルレイアウトによるサイト制作を続けざるを得ませんでした。
やがてWeb制作業界全体の流れが大きく変わりはじめ、職場でも2002年ごろから少しずつ「脱テーブルレイアウト」の制作スタイルを取り入れるチャンスが増えていきました。しかし、当時のメジャーブラウザは現在のブラウザと比較にならないほどCSSの実装にバラツキがあったため、独学でちょっとかじったレベルの知識でCSSレイアウトを実現するには、とんでもない労力を要しました。何かやろうとするたびにトラブルが続発し、徹夜や休日作業は当たり前。たいへんな思いをしているのに周囲の理解を得られず、ひと知れず涙を流したこともあります。しかし、不思議と「テーブルレイアウトに戻ろう」という心境にはなりませんでした。
克服
たくさんの壁にぶつかりながら学んだのは、「CSSデザインには柔軟な発想力が不可欠」ということです。わたしはたいていのデザインはハックをつかわなくても実現できると考えています。特定のブラウザで思うような表示にならないからといって、その都度ハックを使っていてはキリがありません。「マージンでうまくいかないのならパディングではどうだろう?」「ボーダーの解釈がおかしいのなら背景でなんとかならないだろうか?」というように、ひとつのアプローチにこだわらず次々と試してみることでトラブルが切り抜けられることが少なくありません。このことに気づいてからは、作業が格段にスピードアップしただけでなく、裏技的なテクニックに頼らなくなったぶん、CSSの理解が深まった気がします。
CSSハックを調べる前に、ふと思いついたアイデアを試してみたら、あっけないほど簡単にトラブルが解決したことが何度かありますが、これがなかなか快感なのです。本書を読まれているあなたにも、ぜひ同じよろこびを味わっていただきたいと思っています。


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